最高賞を含む、日本代表受賞8研究を紹介

2026年5月に開催されたリジェネロン国際学生科学技術フェア(Regeneron ISEF)2026において、栗林輝さんが最高賞である「ジョージ・ヤンコポーロス革新賞」を受賞する歴史的な快挙を成し遂げました。さらに、日本からは19研究・29名が日本代表として参加し、過去最多となる8研究が各研究部門における優秀賞を受賞したほか、3研究で計4つの特別賞を受賞し、次世代を担う未来の研究者たちが国際舞台で高い研究力と国際的な発表能力を示しました。

各受賞者の研究概要は以下のとおりです。

【ジョージ・ヤンコポーロス革新賞、物理学・天文学部門  優秀賞1等】

栗林輝さん (市立札幌開成中等教育学校)

研究タイトル:マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いたリンク機構に関する研究 

English Title:Sampling the Complete Configuration Space of Origami and Linkages Using Markov Chain Monte Carlo 

研究概要:折り紙とリンク機構は、一部を動かすと全体が連動するという性質から、建築から宇宙工学まで幅広い分野で応用されています。これらの仕組みは複数の動き方(モード)を持ち、剛体・非剛体を経由してモードが切り替わります。こうした動きの全体像は、配置空間と呼ばれる空間の上で記述できます。しかし従来の手法では一度に一つの動きしか辿れず、配置空間全体を効率よく探索することには限界がありました。そこで本研究では統計力学の視点を取り入れ、折り紙とリンク機構の配置空間全体を統一的な枠組みで可視化・解析する手法を開発しました。まず、折り紙とリンク機構を、頂点と辺からなるグラフとして一般化します。次に、各辺の長さの本来の値からのずれを「エネルギー」と定義します。これにより、剛体の状態は高い確率で、非剛体の状態は低い確率で現れる確率分布、すなわちボルツマン分布を構築します。そして、この分布に従うサンプルを、マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いて効率的に取得しました。得られた結果を既知の厳密解と比較したところ、すべてのモードを一度に再現することに成功しました。さらに、サンプルをクラスタリングすることで、モードの分類と数の判定も可能になりました。応用として、テントウムシの翅に共通して見られる折り紙構造を解析しました。その結果、折り畳まれた状態と展開した状態の二つで安定する「双安定性」が明確に示され、折り紙構造がテントウムシの安定した飛翔を支えていることが示唆されました。さらに本手法は、逆問題(指定された動きを実現する機構を逆算する問題)にも適用可能であり、指定した軌道を描くリンク機構を推定することに成功しました。本研究は、運動学と統計力学を結びつけ、複雑な機構の解析と設計に新たな可能性を切り開く手法です。

※研究プレゼン資料:https://isef.net/project/phys021-config-space-sampling-of-origami-and-linkages 

【動物科学部門  優秀賞4等】

加藤豪さん (東京学芸大学附属高等学校 )

研究タイトル:刺身断面の筋原繊維の微細構造と構造色の関係に関する検討 

English Title:Quantitative Analysis of Angle-Dependent Surface Coloration on Sashimi: Testing Thin-Film Interference, Muscle-Fiber Structural Color, and Optical Activity 

研究概要:

刺身の表面では、見る角度によって色が変化する現象が観察されます。この発色の原因には未解明な点が多くありましたが、本研究ではマダイの刺身を電子線顕微鏡で観察することにより、筋原繊維に光の波長サイズの周期的な構造を確認しました 。この微細構造が多層膜干渉を引き起こすことで、特有の色が生じていることが示唆されました 。この成果は、刺身の鮮度評価や筋肉の病理学的状態の判定への応用が期待されます。

※研究プレゼン資料:https://isef.net/project/anim018-quantitative-analysis-of-sashimi-iridescence 

【動物科学部門  優秀賞4等】

石橋桐磨さん、石塚太一郎さん、川合麻夢さん 

(静岡県立焼津中央高等学校 )

研究タイトル:クワガタムシ幼虫のメス斑とは? 

English Title:“Female Spot” of Stag Beetle Larvae is a Symbiont Organ  

研究概要:

クワガタムシの幼虫には、お腹に「メス斑」と呼ばれるオレンジ色の斑点があり、これまで 「メスだけにある卵巣のもと(卵巣原基)」と考えられ、性別判定にも使われてきました。 しかし本研究では、この定説を改めて検証しました。調べてみると、一部のオス幼虫にもメ ス斑が存在することが判明。さらに、組織観察や電子顕微鏡による分析から、メス斑は生殖 器ではなく、消化管の一部にある特殊な構造であることが分かりました。加えて DNA 解析 の結果、ここには成虫メスの「菌嚢(きんのう)」にいるものと同じ酵母が共生しているこ とを確認しました。つまりメス斑は、幼虫の時期に共生微生物を保持し、成虫へ受け継ぐた めの器官である可能性があります。長年信じられてきた「メス斑=卵巣のもと」という常識 を覆し、図鑑の説明を書き換えるかもしれない興味深い発見です。 

※研究プレゼン資料:https://isef.net/project/anim023t-female-spot-of-stag-beetle-is-a-symbiont-organ 

【生化学部門  優秀賞4等、アルムナイ特別賞】

長坂ソフィア怜さん  (東京都立日比谷高等学校)

研究タイトル:ドラッグ・リポジショニングを活用した遺伝子操作技術の開発 English Title:Drug Repositioning for Novel Genome Engineering: Technology With High Therapeutic Efficacy and Low Side Effects 

研究概要:

ドラッグ・リポジショニングとは、すでに使われている薬を別の目的に活用する方法で、安全性の面で有利な研究戦略です。本研究では、この考え方を遺伝子治療に応用しました。病気の原因となる遺伝子を取り除ける「Cre」という酵素は有用ですが、これまで薬で働きを自由にON/OFFする技術は、効率が低く実用化が課題でした。そこで、Creの働きを一時的に止めておき、抗生物質として広く使われる安全性の高いトリメトプリム(TMP)を加えた時だけ強く働く仕組みを開発。さらに、二量体化を促進するタンパク質の仕組みを活用して性能を高め、DNA組換え効率の大幅な向上を実現しました。遺伝子治療をより安全かつ実用的に進める技術として期待されます。

※研究プレゼン資料:https://isef.net/project/bchm010-drug-repositioning-for-novel-genome-engineering 

【物理学・天文学部門  優秀賞2等】

喜多俊介さん  (筑波大学附属駒場高等学校)

研究タイトル:物質中で磁場の力は境界面にのみ生じるか

English Title:Do Magnetic Forces in Matter Act Solely on the Boundary Surfaces? Evaluating the Formulations of Minkowski, Helmholtz and Lorentz 

研究概要:

物質の中で電磁場がどのような力を生み出すかは、物性物理の基本的なテーマですが、実は まだ統一した答えがないとされ、複数の理論が提案されています。本研究では、これまで主 に電場で議論されてきた問題を「磁場」に注目して検証しました。まず、静的な磁場によっ て液体表面が変形する「モーゼ効果」を実験で精密に測定し、理論計算と比較した結果、ロ ーレンツ理論では説明が難しいことが分かりました。さらに、強いパルス磁場で液体酸素の 表面が引き裂かれて飛び散る現象を数値シミュレーションで解析したところ、磁場の力が 境界面に集中すると考えるミンコフスキー理論のほうが、実際の観測結果によりよく一致 しました。磁場中で電磁気の力の理論を直接比較した初めての研究として、電磁気学の基礎 理解や、流体の非接触制御などへの応用にもつながる成果です。 

※研究プレゼン資料:https://isef.net/project/phys027-do-magnetic-forces-act-solely-on-the-intersurface 

【植物科学部門  優秀賞2等、アリゾナ州立大学賞、トルコ科学技術研究会議賞 1等】

小松和滉さん  (長野県諏訪清陵高等学校)

研究タイトル:オジギソウの刺激識別と学習能力-刺激装置とAI葉開閉度評価を用いた実証- 

English Title:Learning Without a Brain: Habituation and Stimulus Discrimination in Mimosa pudica Explained by Mechanosensitive Channel Desensitization? 

研究概要:

神経系を持たないオジギソウが「学習」や「刺激の識別」を行うかを研究しました。自作の刺激装置で垂直・水平方向の機械的刺激を与え、葉の反応をディープラーニングで定量評価した結果、同じ刺激の繰り返しでは反応が弱まり(脱感作)、異なる方向の刺激には再び強く反応することを確認。休息後に反応が回復する「自発的回復」も観察され、オジギソウが行動学的な馴化(ハビチュエーション)を示すことを明らかにしました。さらに、この仕組みを細胞膜上の機械感受性イオンチャネル(MSチャネル)の局所的脱感作で説明する数理モデルを構築し、実際の行動を再現。植物が脳のような中枢処理系を持たずとも、細胞レベルで環境情報を保持し適応行動をとる可能性を示しました。

※研究プレゼン資料:https://isef.net/project/plnt017-stimulus-discrimination-and-memory-in-m-pudica 

【ロボット工学・知能機械部門  優秀賞2等、アブドゥルアズィーズ国王財団の才能創造性賞】

五十嵐夕剛さん  (アメリカンスクールインジャパン)

研究タイトル:半自律潜水艇を用いたマイクロプラスチック検出のための機械学習アルゴリズムの開発 

English Title:Autonomous Underwater Vehicle (AUV) for Real-Time 3D Microplastic Concentration and Toxicity Mapping via Deep Learning and Integrated Microscopy 

研究概要:

マイクロプラスチックは生態系に深刻な影響を与えていますが、従来の観測手法は高価かつ非効率です。本研究では、マイクロプラスチックの濃度と毒性をリアルタイムで三次元的に可視化できる、低コストな自律型水中ロボット(AUV)を提案しました。AUVには、Raspberry Piによる制御システムと顕微鏡カメラを搭載し、機械学習を用いて粒子検出やポリマー識別を行います。さらに、独自のアルゴリズムにより毒性データを3Dヒートマップとして可視化しました。海水調査では、表層付近への高毒性領域の集中を可視化することに成功し、従来手法と比較して解析時間を98%、導入コストを96%削減しました。安価かつ拡張性の高いマイクロプラスチック監視手法としての貢献が期待されます。

※研究プレゼン資料:https://isef.net/project/robo019-autonomous-auv-for-real-time-microplastic-imaging

【テクノロジーによる芸術の拡張部門  優秀賞4等】

植松菜生さん  (桜蔭高等学校)

研究タイトル:持続可能で美しい金継ぎ3D点群データセットの提案 

English Title:Kintsugi 4D: Image-Based Kintsugi-Aware Framework for Fragment-Level 3D Point-Cloud Reconstruction and Chronicle Integration  

研究概要:

金継ぎは単に割れてしまった欠片を継ぎ合わせることで新たな模様を与えるだけに留まりません:金継ぎによって継ぎ合った欠片にはそれぞれの物語・歴史があります。本研究では、金継ぎが持つこれらの「美しさ」を科学的に説明するAIモデルを作成してきました。本モデルは金継ぎを施された皿を欠片に戻した3D画像を作成し、更にその欠片にどのような「意味」があるのかを4次元的に説明します。金継ぎの美しさが広まることでゴミの大量発生を抑えられるとともに、芸術品としてさらなる価値を付与することが期待できます。

※研究プレゼン資料:https://isef.net/project/teca006-kintsugi-4d